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FBI-アキトDATESS-act.01
<<<04-03>>>






<秋人>
 さて。

<一同>
 …………

<秋人>
 このたび起きた、テスト問題流出という一件について。現在、学校側は一人の女生徒に疑惑の目を向けています。
 そんな、悪い意味で注目されてしまった生徒。それは今ここにいる“泉まゆか”さんなわけですが。

<まゆか>
 …………

<秋人>
 それでは。なぜ学校側の目は、全校生徒の中から彼女一人に向く事になったのか?
 それに至った要因は、大きく三つ。
 一つは、彼女が今回のテストにおいて長期休養という『ハンデ』を背負っていた事。
 次に、18日金曜日の夕方から翌19日土曜日にかけて、職員室のガラスが割れていた期間があった事。
 そして最後に、割れていたガラス窓付近から、泉まゆかさんの『所有物』が発見された事。

<秋人>
 以上三点。大雑把ではありますが……
 恐らくはこれらの状況が、流出の事実を知った学校側の前に“泉まゆか”という生徒の名前をぶら下げるに至った根拠となった。そのはずです。

<工藤>
 …………

<秋人>
 そして。二年生のみが一日遅れでテストを終えた土曜日の午後。泉さんは一人、生活指導室へと呼び出されました。
 呼び出しの理由は、流出に関する事情を彼女本人から確認するため。そして泉さんは、その場でこう証言したはずです。

『18日金曜日の夜。私は学校の敷地に無断で忍び込みました』と。

 その証言に間違いはないな、泉さん?

<まゆか>
 は……はい!
 18日の夜、私は一人で学校に忍び込みましたっ。

<秋人>
 よし、いい返事だ。

<秋人>
((まあだけどな、あれだ。そう心配そうな顔をするな。あんたは自分の運でも信じて楽に構えればいい))

<まゆか>
((え? あ、は、はい))

<秋人>
 さて。
 金曜日の夜、学校へ忍び込んだ。そんな彼女の発言を受け、学校側が泉さんに向ける視線は、より疑惑に満ちたものとなったでしょう。
 先にあげた三つの根拠。そこに加わる、彼女自身の自供ともとれる証言。
 これだけの状況が揃ったならば、いくら泉さんが『テスト流出とは無関係』だと言い張ったところで、中々どうして、その弁明を受け入れられるものではない。
 だからこそ。
 今現在もなお、学校側の疑惑は泉さんに向けられたままである──と。

<秋人>
 さあ、ここまでがテスト問題流出にまつわる一連のあらましになるわけだが……
 それでは。テスト問題を職員室から盗み出したのは、本当に“泉まゆか”さんだったのか?

<双葉>
 違う。直感だけど、でも絶対にまゆかじゃない。そうに決まってる。

<秋人>
 そう。お前の直感はたぶん間違っていないはずだぜ。

<双葉>
 そ、そうよね!

<秋人>
 職員室からテスト問題を盗み出した人物。それは恐らく、泉さん以外にいる。では、それを証明するためには、どうすればいいのか? それにはまず……
 手に入れた『流出に関わる情報』を頼りに、テスト流出の前後において、学校で起きていたであろう『実際の出来事』を推測していく必要がある。

<双葉>
 実際の出来事って、どういう意味?

<秋人>
 ああと、つまりだ。何て言ったら分かりやすいか。
 まあ、言うなればだ。手持ちの情報を吟味して、本来じゃ知りようのない『実際の出来事』を探っていくって事なんだが……

<まゆか>
 ……?

<秋人>
 ピンとこないか? 伝えるにも、これは中々にニュアンスが難しいな。よし、それなら……
 取り合えず、具体的な話しを進めながら説明していった方が手っ取り早いだろう。と言うことでだ……

<秋人>
 では質問だ。
 テスト問題の流出が発覚したのは、具体的に『いつ頃』だったと思う?

<優希>
 発覚がいつ頃か?
 それはつまり『テスト問題が外部に漏れていた』という状況を、学校側が『どの時点で把握していたのか』という解釈でよいのか?

<秋人>
 ああ、それでいい。学校側はテスト問題の流出を“いつ頃”知ったんだと思う?

<双葉>
 それなら多分……
 …………
 ううん。多分って言うか、そんなの決まってるじゃない。盗まれたのが18日金曜日の夜ってんだから。
 学校が気が付くとしたら、翌日の『19日の土曜日』から、テストが始まる『21日の月曜日』までの三日間の内のどこかに決まってるでしょ?

<秋人>
 おう。一応は正解だ。

<双葉>
 一応ってなによ?

<秋人>
 テスト直前の土、日、月。19日から21日までの三日間の間のどこかってのは、まあ間違いじゃない。
 しかしだ。今、手持ちにある情報をよく見てみろ。三日間どころか、もっと具体的な時間を絞り込めるだろ?

<双葉>
 へ? 何それ。んじゃあんたは、いつだって言うのよ?

<秋人>
 そうだな。俺の見立てだと、学校側が流出に気付いたのは……
 19日から21日という三日間の中でも、かなり遅い時点。それこそテスト開始の直前くらい。
 あえて言っちまうなら。恐らく、本来のテスト初日にあたる『21日月曜日の朝』あたりだったんじゃないかと考えている。

<工藤>
 ……ほう。

<まゆか>
 え、でもそんなにギリギリに?

<双葉>
 どうしてそう思うのよ?

<秋人>
 ああ、理由は結構単純だ。
 今回の不祥事に対して学校側がとったという対応策。その内容を考えた場合。
 流出の発覚は、テスト直前の切羽詰った状況だった、と。そう考えるのが一番妥当だったんだよ。

<双葉>
 だからどうして妥当なのよ、それが?

<秋人>
 ようするに、こういう事だ。
 21日月曜日のテスト初日。唐突に2年生のテスト日程だけが、一日ずれ込むことになった。
 ではなぜ、急遽テスト日程が変更されたのか。考えられる原因といえば、まあ一つしかない。
 日程変更の要因。それは恐らく、学校側が問題流出に対する対応策をとるための“時間稼ぎ”だった。そのはずだ。

<優希>
 確かに、普通に考えればそうなるだろうな。

<秋人>
 んじゃ続けるぞ。
 では、学校側が行った対応策とは、具体的にどんなものだったのか?
 こいつも、それほど込み入った考えは必要ない。なにせ……
 問題流出が確実であり、そんな緊急事態に対して最も効果的かつ確実な対応策なんて、相当に限られてくるからな。
 だとしたら、学校側が『稼いだ時間を使って』取ったであろう対応策ってのは、十中八九──

<優希>
 テスト問題の作り直し、だな?

<秋人>
 おう、その通りだ。
 一度、内容が漏れ出てしまった以上、今さら回収するなんてまず不可能。だが、そのままテストを強行すれば、生徒達の間に明らかな不公平が生まれてしまう。
 なら、どう対応するのが正解か?

<秋人>
 やはりそこは、『作り直し』を選択するべきだろうぜ。
 実際。授業で出ると言われていた問題が、あまり出てこなかった何て言う証言もあったわけだしな。

<双葉>
 あー! ひょっとして、作り直したから出す出す詐欺が!?

<工藤>
 ……さ、ぎ?

<秋人>
 かもな。ま、何にしてもだ。
 これらの事情を加味して考えた場合、二年生のテスト問題は『流出の対策』として、一度作り直されていると、そう考えるべきなんだ。
 ところが……

<秋人>
 この『テスト問題の作り直し』という行動は、流出の発覚が19日や20日という、比較的早い段階だった場合、どうにも当てはめにくい考えになる。

<双葉>
 なんで?

<秋人>
 考えてもみろ。
 仮に、19日の土曜日に早々と流出が発覚していたとすると。
 それはつまり、テスト初日の21日月曜日まで、丸二日も時間的余裕がある事になる。
 しかもその二日間ってのは、授業のない土曜と日曜。
 普通なら、土日の二日間という時間はテスト問題の作り直しを行うのに十分すぎる猶予だと言えないか?

<双葉>
 うーん、それもそうかも。

<秋人>
 そしてだ。作り直しが開始までに間に合ったのなら。それなら、わざわざテスト日程を一日ずらす必要なんてどこにもないはずだ。
 にも関わらず……

<秋人>
 結果的に学校側は、テスト当日になって急遽、日程の変更という対応策を打ち出した。
 これは、テスト問題の作り直しが開始初日の21日月曜日までに間に合わなかったという事であり。そんな事態に陥った原因としてもっとも考えられそうな事と言えば……

<優希>
 なるほど。発覚が遅れたせいで、作り直すだけの時間的な余裕がなかったという事だな。

<秋人>
 と考えるのが妥当だろう? じゃなきゃ、先生方がどいつもこいつも怠けていたかの、どちらかになるからな。

<雅也>
 え? 何、あいつら揃ってサボってたの?

<工藤>
 お前と一緒にするな、飯島。我々はそれほどに怠慢ではない。

<雅也>
 うわはっ! スンマセン!

<秋人>
(やっと口を挟んできたか……)
 ちなみにです、先生。

<工藤>
 何かな?

<秋人>
 実際のところ、テスト問題の作り直しには、どれくらいの時間が必要ですか?

<工藤>
 ……うむ、そうだな。
 テスト問題の作成は、各教科の教員がそれぞれ請け負っている。その上、再作成となれば下地はすでに出来ている状況だろう。
 この条件であれば。他の仕事を全て後回しにして総がかりすれば、それこそ全教科を半日で作る事もできるだろうな。

<双葉>
 はやっ。

<工藤>
 そしてだね。
 例えそれが休日や祝日だったのだとしても、我々教師はそんな状況下でもっとも優先すべき仕事。『テストの作り直し』を放っておくほどに、職務を怠慢などしていない。

<秋人>
 怠慢はしていない。だとしたら、それはつまり?

<工藤>
 つまりだね、霧島君。君の指摘した通りだという事だよ。
 我々が流出の事実に気づいたのは、21日月曜日。そう、あれはテスト初日の早朝の出来事だった。

<秋人>
(よし、悪くない)
 ありがとうございます。これで一つ、我々の仮説に確証を持たせる事ができました。

<まゆか>
 わ……われわれのかせつ。

<雅也>
 え? 俺も入ってんの?

<優希>
 反応に困る表現だな……

<聖司>
 …………

<双葉>
 てーかさ。そんなこと分かったとして、まゆかの潔白とどうつながるのよ?

<秋人>
 あー、まだ直接はつながらないさ。そうだな。言うなれば、これでやっと足場が固定できたかな──くらいのもんだ。

<双葉>
 えー大丈夫なの?

<秋人>
 どいつもこいつも、そう不安そうな顔するな。何事も足元ってのが一番大事なんだよ。

<優希>
 それで具体的に、ここからどうやって仮説とやらを組み立てていくつもりだ?

<秋人>
 そうだな。じゃあせっかくだから、今聞いた『発覚の時期』に関して。もう一歩、踏み込んで考えてみようか。

<まゆか>
 もう一歩……ですか?

<秋人>
 ああ。『発覚がテスト当日の朝』だったという状況に、今度は別の証言を放り込んで見るとだ。
 次に見えてくるのは“切欠”。そう、学校側が流出という異常事態に気づく事になった“切欠”の正体だ。

<工藤>
 切欠……

<秋人>
 では改めて。工藤先生、もう一度お尋ねします。これは先に何度もお伺いした事ではありますが……

<工藤>
 …………

<秋人>
 職員室から持ち出されたのは、テスト問題が収められたPCの“データ”だった。

<工藤>
 ……む。

<秋人>
 そしてそのデータは、先生の管理するPCから無断で持ち出されており、さらには。

<工藤>
 …………

<秋人>
 テスト当日の早朝。学校側は──
 持ち出されたデータそのものを、『在ってはならないはずの場所』で発見した。

<工藤>
 ……!?

<秋人>
 その発見が“切欠”となり、学校側は流出という異常事態を知り──
 テスト開始時刻が差し迫る中、急遽対応に追われる事となった。
 さあどうでしょう。この仮説は間違って──

<工藤>
 待て! どうしてその事を知っている?

<秋人>
(おおっと。この反応……ビンゴか?)

<聖司>
((……っ))

<双葉>
 え、何? データ? 発見した? どういうこと?

<工藤>
 せ、説明しなさい! どこをどうしたら、そんな考えが出てくる!?
 よもや、霧島君。君自身が──

<聖司>
((もっ!?))

<秋人>
 早合点しないでください。これはただの仮説です。

<工藤>
 今の指摘が仮説の域にある物だとは、とても思えん!

<秋人>
 そうでもないですよ。では実際に、どうしてそんな仮説が成り立ったのか、順を追って説明していきましょう。よろしいですか?

<工藤>
 よ……よかろう。聞かせてもらおうじゃないか。

<秋人>
 それでは。
 先ほど先生が認められた『流出の発覚はテスト当日の朝だった』という状況を前提にして、話を進めていきます。

<秋人>
 21日月曜日、早朝。流出の事実を知った学校側は、二年生の日程を一日ずらし、稼いだ時間をテスト問題の作り直しに当て、異常事態への対策とした。
 きっとこの判断は、英断だったと言えるかもしれませんね。
 なにせ、流出が判明したのが、テスト当日の朝。そんなギリギリの段階では新しく問題を用意する時間などなく……
 それゆえに学校側の対応は、致し方のないものだったと言えるでしょう。
 だが、しかしです。

<秋人>
 『作り直し』という対応方法を選べた事自体が、“切欠”が何であったかを示唆しています。

<工藤>
 …………

<秋人>
 重視すべきは、学校側の出した対応策が、かなり“具体的”であったこと。
 事実。日程の変更を言い渡されたのは、二年生のみでした。対照的に、一年生と三年生に関しては、まったく何も対応されていない。
 だとすれば。流出したテスト問題は、『二年生対象のものだけ』だったという“具体的”な判断が下された事になる。
 だからこそ。二年生のテスト日程にのみ、てこ入れがされる事になったわけですが……
 これ。傍目に見ても、随分と具体的に過ぎた対応と言えますよね?

<工藤>
 …………

<秋人>
(また無言、か)
 続けます。

<秋人>
 二年生にのみ対策をし、他の学年は全くの放置。この、愚策とも言える英断を実行に移すためには、やはりそれなりの確かな情報が必要のはずです。
 『流出したのは二年生のみ』という、確かな情報がね。
 だとしたら。学校側はどこでどうやって、そんな情報を手に入れたのか?

<全員>
 …………

<秋人>
 そこで自分は、こう考えました。
 流出の発覚に至った“切欠”そのものに、何らかの形で明確な情報が込められていたのではないのか? と。

<秋人>
 なにせ、発覚したのはテスト当日の朝。さらには開始まで間もないという、切羽詰った状況。とてもではないが、詳しく調査をしている時間などあるはずもない。
 ならば、発覚してから探し回って手に入れた、新しい情報と考えるよりも……
 むしろ。発覚の“切欠”となった出来事、その物。それ自体にこそ、英断を下せるだけの情報が含まれていたのではないか? と。
 そう考えたほうが自然だと、自分には思えたからです。

<全員>
 …………

<秋人>
 では仮に、この考えが的を得ていたのだとした場合。
 発覚の“切欠”がどんなものあれば、学校側がそれほどまでに“具体性”のある判断を土壇場で下せるような状況に成り得るのか。

<秋人>
 テスト問題の流出。そして発覚。
 “切欠”としてあがちなパターンといえば、そうですね。
 例えば。生徒間でそういった噂話が持ち上がり、それが学校側の耳に入る。それを受け、念のために対応策がとられた──というような展開。
 ならば。発覚の切欠は噂だったのか?
 いや。それは考えにくい。
 噂レベルでは、どの学年の問題が漏れていたのかなんてことを正確に把握できるとは、到底思えない。
 何より。先にも言ったように、発覚自体がテスト直前では、噂の信憑性を確認する暇すらもないわけですから。
 つまり。発覚の“切欠”は、噂レベルの話などではなく、もっと具体的な情報に基づいてであったと考えるべきだ。

<全員>
 …………

<秋人>
 さて。テスト当日の土壇場で、事実確認の必要性などないほど信憑性が高く……
 加えて、どの学年の問題が流出したのかを具体的かつ迅速に判断できるだけの切欠。それは何か?
 そこで思い浮かんだのが、“データ”でした。

<工藤>
 そこで、どうしてデータが出てくるのだね?

<秋人>
(……やっと反応したか)
 二学年のテスト問題のデータ。管理されているのは工藤先生で間違いないですね?

<工藤>
 ……ああ。

<秋人>
 ちなみに先生が管理されているPCには、一年や三年などと言った、他の学年のテスト問題のデータも?

<工藤>
 それはない。他学年のものは、それぞれの学年主任が管理している。

<秋人>
 当然、三学年とも『個別のPC』に『別々の管理パスワード』つきで?

<工藤>
 その……通りだ。

<秋人>
 だとしたら。“切欠”が、ある特定の条件を満たしてさえいれば。
 それならば学校側が、具体的かつ迅速な対応をとる事も不可能ではない。
 そう例えば──
 二学年主任、工藤 幸之助先生。本来ならその人が管理するPC内にしかないはずのテストを管理する“データ”が、もしも。
 もしも、テスト当日の朝。全く意図しない場所から、発見されるというような状況が起きていたのだとしたら、ね。

<工藤>
 なん、と。

<秋人>
 そんな物を見つけてしまったら、それこそ大騒動になるでしょう。事実、出し抜けに判明した不祥事に、学校側は対策をせまられた。
 発見されたのは、二年生を対象としたテスト問題。ならば、誰かが職員室に忍び込み、管理PCからデータを抜き取ったということ。
 それでは、一年と三年の問題も、同じように抜き取られているのか?
 いや、それは考え辛い。三学年全部の管理PCにアクセスするためには、三種のパスワードが必要になる。
 仮に。何かしらの偶然で誰かがそのパスワードを入手したのだとして……
 それを一気に三つ。三学年分全てを手に入れるなんて事、起こりえるとは思えず。
 それ以前に、犯行に及んだ人物が、自身とは無関係な学年のテスト問題までをも欲しがるとは思えない。

<全員>
 …………

<秋人>
 つまりです、工藤先生。
 職員室から持ち出されたのが、本来ならあなたのPC内で管理されているはずの“データ”であり。
 尚且つ。テスト当日の朝、持ち出された『データそのもの』が発見されるという状況が起こっていた場合に限り。
 『二年生のみ日程をずらし、テスト問題を作り直す』という、この度における学校側の一連の対策行動が成立する事になる。

<工藤>
 …………

<雅也>
 あ……頭が……爆発しそうだ。

<まゆか>  ああ、飯島君が……

<秋人>
 とまあ、とにかくです。
 どういう経緯で、学校側がデータを入手したのかまでは、正直分かりませんが……
 それでも。これが『テスト初日の朝。学校側が流出したデータそのものを手に入れた』と考えるに至った根拠なわけです。
 では先生。この仮説に訂正は必要ですか?

<工藤>
 ……まったく、信じられぬ思いだ。

<秋人>
 それで、お答えは?

<工藤>
 いいだろう、認めよう。今聞いた仮説に対し、取り立てて訂正が必要な箇所は見受けられない。
 テスト当日、つまり21日(月)の朝。誰でもないこの私が、テスト問題の入ったデータを入手した。

<秋人>
 おお、工藤先生が見つけたので?

<工藤>
 そうだ、私だ。とは言え……
 『見つけ出した』と言えるような状況ではなかったがね。

<秋人>
 ? どう言う事でしょう?

<工藤>
 要するに。受け取ったのだよ。匿名の人物からね。

<秋人>
 匿名……

<工藤>
 そう。あれは無記名での届出だった。
 流出発覚の切欠は『匿名の人物より、流出したデータそのものが届けられた』ことだったと言うわけだ。

<秋人>
(匿名の……届出)

<工藤>
 21日(月)の朝。まもなく生徒たちが登校してくるだろうかという時間になって、用務員さんが職員室に持ってきたのだよ。
 教職員用の玄関口。そのすみに置かれていたという茶封筒をね。
 封筒の中身を最初に見たのは私だ。中には『USBメモリ』とともに、メモ用紙に一文が添えられていた。

<秋人>
 ちなみに、そのメモにはなんと?

<工藤>
 ……ふぅ。
 たしか、『このようなものを見つけてしまいました。もしかと思い、届け出る次第です』といった内容だったかな。

<秋人>
(見つけた。となれば、やはりデータはネット上で……と、考えるべきなのか?)

<工藤>
 これで、満足かね?

<秋人>
 え、ええ。ありがとうございます。
(しかし、本当にネットなんて事が……)

<工藤>
 それで。霧島君、ここからどうするのかね。

<秋人>
 え? えあ、ええと……何でしたっけ?
(クソ。何か引っかかるが、考えをまとめきる時間はねぇか)

<工藤>
 おいおい。発案者は君なのだろう? その本人が、事の主題を忘れてどうする。
 二年D組 泉まゆかさん。彼女の潔白を証明する。そこはそのための“場”なのだろう?

<秋人>
(……そうだった)
(仕方ない。とにかく今は、目の前の問題に集中するしかねぇ)
ええ、その通りです。

<まゆか>
((あ、あの))

<秋人>
((何だ?))

<まゆか>
((本当に、本当にできるのですか。私……))

<秋人>
((どうだろうな。ここまで来れば、確立は悪くないと思うぜ))

<まゆか>
((え、確率?))

<秋人>
((そうだ。最初に言っといただろ、『絶対はない』ってよ))
((だからこそ、後は自分の運に期待しな))

<まゆか>
((は、はい! 頑張ります!))

<工藤>
 では。さっそく教えてもらえるかね? 泉さんが“流出の一件”と無関係だと言える根拠。それはなんだ?

<秋人>
 分かりました。では……
(あと一踏ん張りだ。気合入れてくぞ)




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