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FBI-アキトDATESS-act.01
<<<04-02>>>






<秋人>
 まず。俺……ああ、いえいえ。えっと……
(何だっけ? 確か……おお、そうそう自分。“自分”だ)

<秋人>
 ええと、ではまず。“自分”たちの考えをお話しする前にですね。ええと、できれば先に確認しておきたい事がある……ります。
(くっそ、しゃべりづれぇ……)

<双葉>
((自分でまいた種でしょ! 泣き言いってないで、頑張んなさいよ!))

<秋人>
(ちくしょう)

<工藤>
 確認したいことか。何かね?

<秋人>
 あー、それはですね……
 ずばり。テスト問題は、どういう“形”で流出していたのか、という事なんすけど。

<双葉>
((語尾!))

<秋人>
 事なんです。

<工藤>
 どういう形で、か。
 ふむ。悪いが、今ひとつ質問の趣旨が分からない。“形”とは具体的に何を言い表している?

<秋人>
 ああ、それはっすね。

<まゆか>
((……すね))

<秋人>
(ああもう!)
 それはでございますねっ!
 ふぅぅぅぅぅ。

<秋人>
 要するにです。職員室から持ち出されたテスト問題ってのが、印刷された“用紙”だったのか、それとも……
 PCなどで作成された、印刷される前の“データ”だったのか──という事です。
 どうです、教えてはいただけませんか?

<工藤>
 用紙かデータか、か。なるほど質問の趣旨は把握した。しかしだ。把握こそすれ、やはり理解には苦しむな。
 用紙とデータ、どちらであろうとだ。流出したと言う事実は変わらない。ならば、その二つに違いなどなかろう?

<秋人>
 ところが、そうも行かないんす……ですよ。
 用紙なのかデータなのか。はたして、職員室から持ち出されたのがどちらだったのか?
 この答えは、泉さんの潔白証明に大きく関わってくる。
 ですから。出来ることなら、自分の質問にお答えいただきたいのですが……
 ダメですかね?

<工藤>
 ……ふむ。そうは言われても、どうしたものか。

<秋人>
(口が重いな。まあ、当然と言えば当然だが)
(仮に、この工藤って教師が、俺の事を生徒会の人間だと思い込んでいたとしても)
(それでも結局のところ、所詮この“霧島”って奴は、ちょいと肩書きが付いただけの一般生徒でしかない)
(である以上、件の内容が内容だけに、そう易々と詳しい事情を口にはできない、か)
(しっかし……)
(正直、参ったぞ。こういう、妙に生真面目な手合いってのは厄介だ。下手に頼み込んだところで、頷いてくれるタイプには思えん)
(んが、どうにかこっちのペースに引き込まねーと、話にならねぇか。なら、いっそ)

<秋人>
 …………

<秋人>
(……よし。やってみるか)
 それなら、こういうのはどうでしょう?

<工藤>
 何かね?

<秋人>
 これから自分は、ここにいる他の奴ら……ああ、いえ。他の人たちに向けて、今回の一件について考えられる一つの仮説を話します。
 そして先生には、電話越しで結構なので、自分の考えお聞きいただく。
 いかがでしょう?

<工藤>
 聞いて、それで私にどうしろと言うのだ?

<秋人>
 テスト問題の流出に関して自分が立てた仮説。それに対し、可能であればその正誤の判断をしていただきたい。

<工藤>
 ……なに?
 つまり。私に、君の話す仮説とやらの出来不出来を見極めろ、と?

<秋人>
 ええそうです。簡単でしょう? 何せ先生は、ご存知のはずですから。

<工藤>
 要領を得ないな。一体、私が何を知っていると言うのかね?

<秋人>
 何を今さら。先生がご存知のことなんて、決まっているじゃありませんか。それは──
 泉まゆかさん。彼女の潔白を立証するために必要な、いくつもの情報を、ですよ。

<まゆか>
((……え?))

<工藤>
 ……何だと。

<秋人>
 先生の手元には、泉まゆかさんがテスト流出とは無関係であることを指し示す情報が、すでに幾つも転がっているはずだ。
 違いますか?

<工藤>
 …………………………………………

<優希>
((ま、牧君))

<双葉>
((え、は、な、何でしょう?))

<優希>
((ちなみにこれは、どういう展開だ?))
((君の兄上は、我が校の教師に向かって一体何の話をしている?))

<双葉>
((あ、いえその、私にもさっぱりで))

<優希>
((そう、か))

<双葉>
((えっとその、すいません。でも、工藤先生が知ってるって何のことなんでしょう?))

<優希>
((さあな。私にも皆目見当がつかん))

<雅也>
((つーかさ。これ、大丈夫なん? 何かもうクドコウに喧嘩売ってるようにしか聞こえねーんだけど))

<優希>
((それは私も気になっていた。先ほどより『新生“霧島”副会長』が工藤先生に向けている物言い。これはまた随分と好戦的なものに聞こえる))

<聖司>
((ひぃぃぃぃぃ))

<優希>
((一般生徒に毛が生えた、たかだか“生徒会副会長”程度の発言にしては、身の程知らずもいいところだ))

<聖司>
((あうあうあうあう))

<優希>
((妙な事に、ならなければ良いが))

<双葉>
((そう……ですね))

<まゆか>
 …………

<工藤>
 ………
 ……
 …
 ……霧島君。

<秋人>
 何でしょう?

<工藤>
 君は今の発言を、この私に向かって、本気で口にしているのかね?

<秋人>
 ええ、本気ですよ。

<工藤>
 では。
 君の言うように、仮に泉さんが潔白なのだとしてだ。
 それを立証できるだけの情報を、この私がすでに持ち合わせているという旨の発言も……
 無論君は、本気で口にしたと、そう言うのだな?

<秋人>
 …………
 ええ、本気です。例えその情報が、潔白の証明に直接結びつくような解答ではなかったとしても……
 自分は何度でも繰り返し口にします。工藤先生、あなたは潔白証明に必要となる情報を、すでにその手にお持ちだ。

<工藤>
 知った風なことを言う。
 では問おう。私がそのような情報を持っていると言うのなら。それではなぜ、私は未だに泉さんを疑っているのだね?

<秋人>
 その答えは簡単です。
 気付かなかったからですよ。先生は、自身が持つ情報の意味に、お気付きになれなかった。
 転がり込んでくる、一つ一つの情報。それらが持つ本当の意味を見逃し続け。そしてあなたは今でも尚、何食わぬ顔で──
 無実の泉さんに、疑惑の目を向け続けていらっしゃる。

<工藤>
 なん……だと?

<秋人>
 だからこそ、泉さんは未だに疑われ続けている。

<工藤>
 ……ば。
 馬鹿げたことをっ!!!

<まゆか>
((……ひっ))

<双葉>
((ふぁ!? び、びっくりしたぁ))

<優希>
((これは……めずらしい。工藤教諭が感情的に声を荒立てるとは……))

<雅也>
((ちょこっと……ちびった))

<聖司>
((…………))

<工藤>
 私が! 泉君を指導室に呼び出すのに、私がどれほど!

<秋人>
(おおおう)

<工藤>
 私が五年前のあの時を、どれほど!

<秋人>
(よ……)
(よく分からんが、どうやら何かの琴線に盛大に触れちまったらしい)
(煽って感情的にしてから、隙を見て付け込む腹積もりだったが……ちょっとやりすぎたか?)

<工藤>
 間違いなど許されない! 私はもう、二度と間違えたりなどできん!

<秋人>
(何を荒ぶってんのか分かんねぇが……)
(しかし、これはこれで好都合。畳み掛けるなら今だな。よし、もっと煽ってしまえ)

<秋人>
 いいえ、工藤先生。あなたはお間違えになった。貴重な情報をいくつもお持ちになっているはずなのに、それでも──

<工藤>
 くどい! 根拠もなしに何を!

<秋人>
 データだった。

<工藤>
 ……なに?

<秋人>
 テスト問題は、“データ”という形で職員室から持ち出されていた。

<工藤>
 ……!?

<秋人>
 そしてそのデータは、工藤先生。あなたの管理するPCから無断で持ち出されたもの。そうですね?

<聖司>
((!?))

<まゆか>
((……え?))

<双葉>
((マジ……?))

<優希>
((……そう来たか))

<雅也>
((え? 何、え?))

<工藤>
 なんだと?

<秋人>
 工藤先生。
 今の自分の指摘は、わずかに知りえた状況から推測して組み上げただけの、ただの仮説です。
 だから当然、自分にはその仮説の真偽を知る術はありません。

<工藤>
 …………

<秋人>
 しかし。先生は少なくとも、今の憶測まがいの仮説に対して、○×を付けられるだけの判断材料をお持ちのはずだ。それも──
 かなり信憑性の高い判断材料をね。違いますか?

<工藤>
 …………

<秋人>
 自分の仮説では。テスト問題流出の一件と泉まゆかさんの間に、関係性はありません。
 いえ、もっと言いましょう。恐らく彼女には、そんな不正行為を働く事自体が“不可能”だった。そのはずだ。

<工藤>
 そこまで……言い切れるのか?

<秋人>
 ええ。恐らく、間違ってはいないはずなので。

<工藤>
 そう……なのか? 私はまた……

<秋人>
 ですので、改めてお願いします。自分の仮説をお聞きいただき、その上で是非の判断をしていただけますか?

<工藤>
 …………

<まゆか>
 …………

<工藤>
 分かった、いいだろう。

<秋人>
(乗ってきた!)

<工藤>
 霧島君。君の申し出を承諾しよう。

<秋人>
 ありがとうございます。

<工藤>
 礼を言われる筋合いではない。
 もとより、君たちが電話の向こうで自由に話したいと言うのであれば。それを止める権利など、私にはありはしないのだしね。
 無論、君たちの話があまりにも実情から逸脱しているようなら、教師としての立場上、口を挟む事もあるかもしれないが……

<秋人>
 構いません。むしろ、その方がありがたい。

<工藤>
 承知した。それとだ。
 先刻は取り乱して……すまなかった。

<秋人>
 いえ。自分も立場をわきまえず、大変失礼な事を言いました。すいません。

<工藤>
 いや構わん。さあそれでは、始めなさい。私はじっくりと聞かせてもらう事にするよ。

<秋人>
 分かりました。始めますので、よろしくお願いします。

<まゆか>
(ごくり)

<秋人>
 ではまず手始めに、今回の一件のあらましから。




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