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FBI-アキトDATESS-act.01
<<<05-01>>>






<まゆか>
 みなさん。この度は、ご迷惑をおかけしました。それと、本当に……
 本当に、ありがとうございました。

<双葉>
 別に、そんなのいいわよ。当然の事をしただけだもん、友達としてね。

<聖司>
 ですね。同じ学校の生徒なんです。堅苦しいのは無しにしましょう。

<雅也>
 そーそー、水臭いって。

<双葉>
 あんたは何もしてないでしょーに。

<雅也>
 えー。そういうこと言っちゃう?

<まゆか>
 だけど、せめてちゃんとお礼くらいは。

<優希>
 いらんよ。
 なにせ泉君。すでに君の潔白は証明されているのだ。ならば今回の件に対し、君が負い目を感じる必要など、欠片もありはしない。
 やっと、大切なお守りを取り戻せたのだろう? ならば今は、そのことを喜ぶ姿の方が相応しい。

<まゆか>
 でも……

<聖司>
 いいんですよ、それで。だってほら、唯一お礼を言うべき相手は、もうこの場にはいないわけだし。そうでしょう?

<まゆか>
 ……はい。

<双葉>
 ですね。本当、いつの間に消えたんだろ。

<聖司>
 気付かなかったな。少なくとも、お店を出た時は一緒でしたよね。

<雅也>
 学校まで来て、校門辺りで牧と泉さんが戻ってくるのを待ってる時も一緒にいたぞ?

<優希>
 あー、いたな確かに。物陰に隠れてこそこそタバコに火をつけようとしていたから、これ見よがしに一喝してやったのだった。

<まゆか>
 え……一喝したんですか?

<優希>
 うむ。そうしたら、舌打ちして取り出したタバコをポケットへ捻じ込んでいたよ。

<まゆか>
 ……あう。

<双葉>
 何でそれで、まゆかが困った顔するのよ?

<まゆか>
 だって私。助けてもらったお礼、まだちゃんと言えてなくて……

<優希>
 惚れたか?

<まゆか>
 ふえ!? そそ、そう言うのじゃないです! た、ただ……

<優希>
 ただ、何だ?

<まゆか>
 ただ、その……。あの人の話、すごく不思議な感じがして。なんだか全部が魔法みたいに見えて。

<優希>
 くく。魔法とは、言いえて妙な例えだな。

<まゆか>
 そ、それに……
 このお守りを見せたら、綺麗なお守りだなって。大切にしろよって。もう落とすなよって、そう言ってくれて……
 だからその、ええと……その。あれ私、何を話してるんだろ?

<双葉>
 まゆか、どーどー。

<聖司>
 ああ、しかしですよ。話を戻しますけど……
 あの人。牧さんと泉さんのお二人が、工藤先生からお守りを取り戻して自分たちと合流した時も、まだ一緒にいたわけですよね?

<まゆか>
 はい、確かにその時には。

<双葉>
 いたわね。そのとき図々しくも、私に向かって『これで1200円分は働いたぞ』とか言ってきやがったし。生意気だ!

<まゆか>
 あうう、双葉ちゃん〜。

<双葉>
 冗談。冗談だってば。

<優希>
 1200円とは何の話だ?

<双葉>
 ああ、いえいえ。全部こっちの話なんで、はは。

<雅也>
 んでもその後、ふっと消えちまったんだよなぁ。

<聖司>
 いつ消えたのか、本当に分かりませんでしたね。色々と不思議な人ですね。

<双葉>
 不思議って言うか、単に行動が身勝手なんですよ、あいつってば。
 帰るなら、一言くらい声かけてからでもいいのにさ。

<まゆか>
 私も。せめて、ちゃんとお礼を言いたかったな。
 すごく。すごく沢山、助けてもらったから。
 ……またいつか、会えるかな?

<双葉>
 …………
 大丈夫。絶対に会えるって。連絡先もなにも、結局聞けずじまいだったけど……
 でも、ま。ほっときゃそのうち向こうから、ノコノコやってくるわよ。

<聖司>
 ええと、牧さん。
 ひょっとして、ですが。実はお兄さんとは疎遠だったりするのですか?

<双葉>
((は!? おにーちゃんだった、ダテ男だった、忘れてた!))
 ははは。いや、なんと言いますか、その。色々とありまして。

<聖司>
 色々、ですか?

<双葉>
 ええ、その、まあ。

<優希>
 あまり詮索してやるな。色々とあるのだろうよ。家庭の事情と言う奴だ。例えば本当の兄弟ではない……とかな。

<双葉>
 ふひ!?

<聖司>
 本当の兄弟ではない……。つまり、血のつながりがない兄弟と言う事ですか。
 んまあ、事情は人それぞれですからね。詮索は野暮と言うものですか。

<優希>
 ふふふ。そうそう。そういう事だ、そういう事。

<双葉>
(ガタガタガタガタ)

<聖司>
 あれ? 自分、何か変な事を言いました?

<優希>
 さあ。

<双葉>
 なななな、何にしてもですよ!
 まゆかの塗れ衣は晴れたわけだし、これで一件落着ですよね、先輩?

<優希>
 一件落着か。ま、そういう事にしておこうか。
 どれ泉君。その取り返したお守りとやら、私も見せてもらって構わないか?

<まゆか>
 え? は、はい。

<優希>
 ありがとう。うむ。
 古いがしかし、よく手入れされているのが分かる。本当に、随分と大切にしていたのだな。

<まゆか>
 はい。大好きだったお祖母ちゃんの形見なので。

<優希>
 そうだったな、祖母の形見だったな。それは一層、雑には扱えんか。

<まゆか>
 そうです。大切にしていましたし、それに。これからはもっと大切にします。

<優希>
 ああ、それがいいだろう。

<双葉>
 そそ。もう落としたらダメだからなっ!

<まゆか>
 うん、分かってる。

<双葉>
 よし。

<双葉>
(…………)
(……それにしても)
(本当、どこいったんだろ。私だってまだお礼の一つも言えてないのに)
(何が1200円分よ。そんな安いわけないでしょ? なのに何よあれ?)
(ああ言って、フッと消えればカッコいいとか思ってんの? 何それあいつの方がよっぽどガキじゃない)
(大体。あのコーヒーは税別1200円なのよ。だから──)

<双葉>
 消費税分忘れてんだろ、バカー!

<まゆか>
 わっ!? ど、どうしたの双葉ちゃん?

<双葉>
 んーん、なんでもない。行こっ!










<秋人>
 あーあ。消費税分……どうすっかなぁ。










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