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FBI-アキトDATESS-act.01
<<<03-05>>>






<優希>
 ええ、はい。先ほどは失礼を──

<秋人>
(はてさて。生徒会長様は上手いこと話を聞きだしてくれるだろうか?)
(どうにも電話越しじゃあ、俺には相手の反応が分からないな)
(まあいい。今は待つだけってことか)

<双葉>
 ねえ。

<秋人>
 ?

<双葉>
 ねえねえ、あんたさ。

<秋人>
 何だ?

<双葉>
 何でそんな事知りたいわけ? どんな意味があるのよ?

<秋人>
 ああ、おいおい話すさ。

<双葉>
 何よそれ。だいたい、何だっけ? 『テスト問題の管理方法』だったっけ?

<秋人>
 そうだ。

<双葉>
 それからもう一つは……えっと。

<まゆか>
 あとは『18日の金曜日に、テスト問題はすでに印刷されていたのか』という事でしたよね?

<聖司>
 あ、あの……

<秋人>
 そう。とりあえずだが、今はその二つだけでも、正確な情報を把握しておきたい。
 いくら仮説だって言っても。せめて土台になる部分くらいはしっかりさせねーと、こっちも話しづらいんでね。

<双葉>
 ふぅん。そういう物なの?

<秋人>
 そういう物なんだよ。
(本当のところは。他にも知っときたい事はあるんだが、流石にそこまではな)
(仮に、今の二つがすんなりといくなら、他のも聞きだせる芽があるかもしれんが……)
(はてさて、どう転がるか。とりあえず、先の二つの結果次第といったところだが)

<聖司>
 会長、電話中ですし、あまり……

<雅也>
 んでもよぉ。俺ってば、ちょっと話きいてただけだけど、それでもよぉ。

<秋人>
 なんだ?

<雅也>
 いやよぉ。なんつーの? テストが印刷されてたかどうかなんて、今さら拘るような話なのか?

<秋人>
 まあ、一応な。

<双葉>
 一応って、あんたこの期に及んで……あ。

<優希>
 待たせたな。

<聖司>
 電話、終わりましたか。

<優希>
 ああ。

<秋人>
 ご苦労さん。で、どうだった。聞き出せたか?

<優希>
 申し訳ないが。どちらの情報に関しても、あまり芳しい結果とは言えないな。

<秋人>
 ……そうか。
(生徒会長といっても、所詮は一生徒。聞き出す対象が内部情報だし、さすがに荷がかちすぎていたか)

<優希>
 まず“18日金曜日の段階で印刷されていたのか”に関してだが。結局、ほとんど聞きだすことが出来なかった。
 ことこの件に関して、想像以上に口が堅くなっている。おのれ教頭、学習しよって。

<聖司>
 教頭なら、まあそうなるでしょうね。なんせさっき会長の誘導尋問にかかって、泉さんの名前を口から滑らせたばかりですから。

<優希>
 何だ? 私の日ごろの行いが悪いみたいな言い方に聞こえたが?

<聖司>
 気のせいでしょう。

<秋人>
 じゃあ、もう一つの方はどうだった?

<優希>
 テスト問題の管理方法だな。こちらも明確な返答をもらえたわけではないが……
 しかし。やり取りの内容から、ある程度の察しはついた。

<秋人>
 教えてくれ。

<優希>
 恐らく。いや十中八九、間違いないだろうが……
 テスト問題の作成は、各教科の担当教諭。基本的にPCを利用しての作成だ。
 そして、出来上がり次第、管理者のもとに集められる。

<秋人>
(へぇ。結果が芳しくないといいながらも、必要最低限の仕事をこなしてきたか、やるねぇ)
(しかし、なるほど。管理者の元に、か)
(状況的には悪くない)

<双葉>
 管理者……ですか?

<優希>
 この場合の管理者は、おそらく各学年の学年主任になるのだろう。
 つまり、漏洩した二学年のテスト問題は、学年主任の“工藤”先生の下に集まっていたと考えていい。

<秋人>
 なるほどね。ちなみに、その学年主任のPCは、誰でも使えるのか?

<優希>
 そんな事があるわけないだろう。当然、起動にはパスワードが必要と考えるべき……



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

<優希>
ん? 誰だ?

<聖司>
 着信ですか?

<優希>
 そのようだ。話の最中だが、失礼。

<秋人>
 ああ。

<双葉>
 で、どうなの? 今の会長の話だけで、何とかなりそう?

<秋人>
 ま……やるしかないだろ。少なくとも、管理方法については今の報告を信用する事にする。
 あと印刷されてたかどうかに関しては……

<双葉>
 だから、どうしてそんな事を知りたがるのよ?

<聖司>
 あ。

<秋人>
 あーもう、しつこいな。

<双葉>
 ケチケチケチケチ。

<まゆか>
 あ、あの。

<秋人>
 分かった分かった。ったく。
 要するにだ。『テスト問題の流出』という一件に関して、泉さんが潔白であり。
 尚且つ、俺の見立てたとおりの出来事が、お前らの学校で起こっていたとしたら。
 職員室から盗みださえたテスト問題ってのは──

<優希>
 おい!

<秋人>
 !? な、何だ急に大声だして。

<優希>
 はぁぁぁぁ。
 まったく。君たちは……愚か者だな。

<秋人>
 うおお?
(物凄い勢いで睨まれてる? なぜだ???)

<双葉>
 あ……あの?

<秋人>
 ど、どうしたよ。電話終わったのか?

<優希>
 まあ、私も浅はかではあった。席を立つべきだったのだろうが。しかし、一般的なマナーくらい守ってもらいたかったよ。

<秋人>
 だから何の話だよ。

<優希>
 どうもこうもない。こう言う事だ。

<電話>
『随分と騒がしいな、水城君。今そこに、何人いるのだね?』

<秋人>
(んな!? スピーカー!?)
(ま……さか……)

<優希>
 私の携帯は、必要以上にマイク機能が充実していることが証明されてしまったよ。

<秋人>
 そんな証明いらんだろ、おい。

<電話>
『今発言した者……君は誰だ?』

<秋人>
 うお。
(周りで騒ぎすぎていたな。これは、ヘマったぞ……)

<電話>
『沈黙か。水城君、今そこには複数の人間がいるのだね?』

<優希>
 はい。

<電話>
『では、教頭先生から“例の件”について、あれこれ聞き出そうとしたのは、そこにいる全員の考えという事か?』

<優希>
 いえ、私の独断です。

<電話>
『ふん、まあいいだろう。とにかくだ』
『その集まりが何なのか。説明してもらう必要がありそうだ』

<優希>
 分かりました。これは……
 この場には。今回の件に対する学校の方針に納得できない者たちが、複数名同席しております。

<電話>
『なるほど。では先刻教頭より報告のあった“電話”は、やはり君たちによる“詮索”の一環だったと言う事だな』
『それで、先ほどの発言の主は誰なんだね。“泉さんが潔白”などと聞こえてきたぞ?』

<秋人>
(ぬおお……耳ざとい。どうする?)

<優希>
 彼は……
 彼は、今回の件で尽力してくれている人物です、工藤先生。

<聖司>
 !?

<双葉>
 うえっ。

<まゆか>
 ひゅ。

<雅也>
 クドコウ……まじ?

<秋人>
(工藤……クドコウ?)
(つーことは、二学年の学年主任で生活指導担当かっ!)
(……これは)
(これはある意味、悪くない展開かもしれない)
(もっとも。立ち回り方さえ、間違えなければの話だが……)

<優希>
 工藤先生。先ほども申し上げました通り、できましたら、これから彼がお話する考えに耳を傾けていただきたいのですが。

<秋人>
(おいっ! こいつ勝手な真似を!)

<工藤>
 今回の件、か。つまり今そこにいる者たちはみな、例の件に関わる経緯を知っていると、そういうわけなのだね?

<優希>
 はい。

<工藤>
 まったく。口外しないように言っておいたはずなのだが、困ったものだ。
 どういう事なのか、説明してもらえるのだろうね、泉さん。

<まゆか>
 !?

<工藤>
 察するに、君もそこにいるのだろう?

<まゆか>
 ……は、はい。

<工藤>
 他言しないように、と。確かにそう伝えたと思っていたが、私の記憶違いだったかな?

<まゆか>
 あの……その。すいません。で、でも私!

<工藤>
 何だね?

<まゆか>
 う。ええと、その……だって……

<工藤>
 言いたい事があるのなら、はっきりと口にする。自らに正当性があるのであれば、口ごもる必要などない。
 口ごもってしまうのは、君に正当性がないからだと思うが……
 私は何か、間違っているかね?

<まゆか>
 う、ううう……

<秋人>
(おお……。なんか凄い勢いで女子がしおれていくぞ。こいつ、どういう教師なんだ?)

<まゆか>
 あうううう。

<秋人>
(というか、なんつーか。見ていてかわいそうになってきた)
(むぅ……)
(しゃーねー。どうせ俺が居る事はバレてんだしな。やったるか)

<秋人>
 確かに、先生の言うとおりだなぁ!

<まゆか>
 うえ!?

<秋人>
 自分が正しいってんなら、口ごもったり、ましてや口を閉ざす必要なんて、どこにもないさ。

<まゆか>
 うえぇ。

<双葉>
 ちょ、ちょっとあんた、いきなり何言って……

<秋人>
 そしてだ。
 だからこそ。泉さんは口を開き、事の経緯を話した。自分の正当性を訴えるためにね。
 それがたまたま俺たちの前だったせいで、結果的に緘口令を破るかたちになっちまったわけだが。
 それを理由に、彼女を責め立てるのは、お門違いだじゃないか?
 なにせ彼女は……
 先生の言うとおり、『自分の正当性を訴えて、言うべき事をはっきりと口にした』だけ。それだけなんだからな。
 俺は何か間違ってますかね? せ・ん・せ・い。

<工藤>
 ………
 ……
 …

<工藤>
 ぶふはっ!

<秋人>
(あれ? 笑われたぞ、なぜだ?)

<工藤>
 ぷ……くくく……

<雅也>
 あ、あのクドコウが笑っているだと……信じられん。

<優希>
 せ、先生。どうされたのですか?

<工藤>
 いや、すまない。なんというか……凄まじい屁理屈が聞こえてきたので、ついな。

<秋人>
(屁理屈とは、失礼な)

<工藤>
 まあ、しかしだ。屁理屈も一応は理屈だ。全肯定は出来んが一理はあるだろう。
 いいだろう。泉さん、件の事を口にした事は咎めないでおこう。それよりもだ。
 どうやらそちらは、随分と賑やかなようだな。たびたび、違う声が混じりこんでくる。と言う事で……
 全員! 学年とクラス。そして氏名を言いたまえ。

<一同>
 !?

<工藤>
 正当性を訴えるなら、口を開く。ならば当然、君たちに後ろめたい事がないのなら、名乗ることに問題などないはずだが?

<秋人>
(ぬ……)

<工藤>
 まずは際ほどより再三、私の事をクドコウ呼ばわりしているもの。名乗りなさい。

<雅也>
 ぬあ!?

<工藤>
 どうした。早く!

<雅也>
 く……。に、二年A組……

<工藤>
 声が小さい!

<雅也>
 二年A組、飯島雅也!

<工藤>
 飯島? また、変わった取り合わせだな。まあいい。にしても……
 私の前でクドコウ呼ばわりとは、大した根性だ。怖いものはないと見える。
 ……覚えておこう。

<雅也>
 うおお!?

<工藤>
 次。女生徒。生徒会長と泉さん以外にも、もう一人声がしたぞ。名乗りなさい。

<双葉>
 の……望むところよ!














<工藤>
 ふむ。生徒会長に泉さん。そして飯島と牧。これで四名か。しかし、やはり変わった取り合わせだな。
 さて、では次は君だ。

<秋人>
 …………

<工藤>
 君だよ、君。先ほど私を笑わせてくれた君だ。学年と名前を名乗りたまえ。

<秋人>
(ぬ……ぐ……)
(どうしたものか)
(この流れで、もしも俺が完全な部外者だと知られるのは、どう考えても得策じゃねぇ)
(とはいえ、学年主任から直接話を聞けるチャンスをみすみす……)

<工藤>
 どうした? なぜ名乗らない? まさかとは思うが……よもや学外の者では。

<秋人>
 いえ、違います。
(この手は使いたくなかったが。背に腹はかえられん)

<工藤>
 早くしたまえ。

<秋人>
 俺は……いや……自分は……
 自分は、生徒会副会長、霧島聖司であります!

<全員>
 !?

<聖司>

「「!!!!!!!!!?????????」」











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